ずっと十年先をゆく
- アロワナを育てる

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■焦げる夢
 本章の生前描写・次章の倫敦編共に、状況設定は基本きのこ先生のUBWシナリオブックに準拠し、補足的にアニメの描写を採用しています。
 で、いきなりこれが難題でした。シナリオブックの描写は以下です。
・炉心融解(原文まま。炉心溶融の意と思われる)で暴走した発電所
・所員は待避済みOR力尽きている
・制御棒までどうにか辿り着いた士郎の肌は高温で溶けている

 原発事故で「所員が待避できる猶予を残して破滅が確定する」って、どんな。

 早々に「やべぇ自分の知識超ふんわりしてる」という悲しい事実が発覚し、泡を食って調べ始めたらさっくり三日程ロスして当初予定の〆切をぶち抜いた、という軽快なスタートを切ったのが本作です。なんで五年前に勉強しておかなかったのか。
 そら、制御棒のコーティング材がアレで高温になったら、冷却水ずんどこ分解しだしてもりもり水素生んでそこに酸素がありゃ500度くらいで自然発火(爆発)するわ。大分遅きに過ぎますがようやくあの辺の仕組みが多少分かりました士郎さんマジ有難う……。
 そんな残念なアタマに可能な範囲で摺り合わせを行ったのが「焦げる夢」のシチュエーションです。結果、本作品の炉心溶融の絵面と展開はアニメ版と少々異なります。
 アニメ版では、原子炉ウェル(原子炉を沈めたプール。原子炉稼働時は一般に『水が抜かれる』)に「水がなみなみ張られ」、湯気も立っていないから原子炉・燃料プール共々適温。これで「奇跡以外の手段では回避できない破滅が確定」しているシチュエーション、ちょっと構成できなかった……。一見何もかも静穏なまま既に終わりが決しているっていうアニメの絵面も、あのシーンの描き方としては大変アリだと思うのですが、如何せん、私の脳力では状況が分からない……。

 本章を一言で済ますなら「あなたのことがしりたいです」。Over the Dawnを読んで頂けた方におかれては「またかよ」という要約ですみません。
 ただ、今回のアニメUBWで葛木せんせの前に、士郎さんが「お前騙されてるんだろう(決めつけ)」でも「投降しろ!(要求)」でもなく「お前はどういう意図でキャスターを放任しているんだ」と「尋ねに出て行く」のを見て衛宮士郎の人物像を再認し、更にこれが倫敦の19歳さんに続くことを併せると、この軸でも「あなたのことがしりたいです」をやり直す必要があるという結論に。一つ、ご寛恕頂ければと。

 被りと言えば、「弓兵に士郎さんの看病させるの好きですね」と言われたらサムズアップして「Yes!!!!」とお答えせざるを得ない。もっと言うなら、弓兵の苦虫噛みつぶしたような顔と裏腹に、手つきは恐ろしく丁寧で、その指先の描写にフェチズムこもってるやつが性癖です。表情と手にギャップがあればあるほどいい。増えよ育てよ地に満ちよと日夜祈っています。あと、怪我の類の上から手を当てさせるのも性癖なので多分またやります。
 これの派生で、「動けない士郎の唇を根気よく綿で湿らせる」のがどうも大好きみたいなんですが、さすがに理性が「またかよ!!」って殴りかかって来たので今回は泣く泣く止めました。


■ずっと十年先をゆく
【倫敦の士郎の部屋:きのこ先生原案】
・四階建てアパルトメントの屋根裏
・部屋選択は本人の希望
・屋根裏だけど、必要なものは揃ったきちんとした部屋。雪山ロッジの雰囲気。
・士郎は階下の凛の部屋に食事を作りに行く

【倫敦の士郎の部屋:ufotableさんアレンジ】
・士郎の部屋はアパルトメントの最上階(凛が三階なのは確定なのでおそらく四階)
・屋根は斜めで、天井が高くなっている所にロフトがあり、士郎はここに布団を敷いてる
・凛が士郎の部屋に食事を摂りに来る

……あのアパルトメント暮らしも大変素敵だったんですが、
1.本章中でも述べたように、英霊連れで初対面のルヴィアさん宅に間借りするのは無理がある
2.あのアパルトメントは士凛の聖域なので、舞台に使うには若干良心の呵責がある
3.弓士@雪山ロッジ風、イイよね/屋根裏、イイよね
 以上3点を鑑みて、本作の住居を捻り出しました。

 いや、いいと思うのです屋根裏部屋。なんと言っても「本人の希望」ってのがいい。
 SN本編の「言いつけを破って毎日土蔵に忍び込み、自分の基地にしてしまった」「だだっ広い衛宮の屋敷は性に合わない」という記述からして、遠慮とかでなく本来的に好きなんだと思うのですああいう場所が。
 何しろこの人、hollowではお寺の裏山にレールを敷いてコペンハーゲンの荷物を運べないかと画策し、育ったら育ったで並行世界の同一存在が工作分解大好き回想で物議を醸します。アレだ、「樹の上の小屋」みたいなガジェットにも弱いでしょうエミヤ類。建てさせたら嬉々として際限なく凝るでしょう(さも見てきたかのように)。
 と、いうわけで、そんな屋根裏弓士の倫敦編。ここまで持ってきてしまえば、あとは19歳さんのバブみにアーチャーがトチ狂っていく過程をニコニコと眺めていれば良いだけで書き手もとても楽しい

 筈だったんですが(こんなんばっかだ)
 
【19歳士郎に対するきのこ先生指定】
・ポジティブ、前向きな精神で「やれることはなんでもやるし、もらえるものはなんでももらう」毎日
・穏やかに笑うようになったし、がむしゃらな向こう見ずさも影を潜めている
・視野も広がり、地に足を付けて理想を考えられるようになった
・日々は楽しい。充実している。
 でも(自己満足にしかならないと分かっている)正義の味方を目指すことに後ろめたさも感じて悩んでいる

 これを踏まえて、魔術だけでなく、語学、政治、歴史等幅広い分野に興味を持ち勉強する士郎が描かれるシナリオブック。
 ようするに19歳さんの透明感のある落ち着きの正体、二年前から士郎が元々持っていたその性質を覆っていたガムシャラさを拭ったものは、彼が「自分を見つめ直した」ことに由来する視野・世界の広がりです。『倫敦編』、つまり19歳さんを書こうと思ったら、彼の「広がった世界」を書かないと始まらない。それが「自分を見つめ直した」=「士郎とアーチャーの対峙」から芽吹いたものなわけで、言うなれば弓士という概念です。弓士という概念です(大事なので二度)。
 こう整理した時点で頭を抱えました。
 私の見識のド偏りっぷりを舐めないで頂きたい。閉じろと言われたら嬉々として四畳半で完結する所まで話を閉じますが、広げろって一体誰に言ってるんだ私にかマジか。
 素で「……無理じゃねぇかな」と思った瞬間でしたが、私はそれでも、19歳さんのバブみをアーチャーにぶつけてみたかった。バブみをぶつけてみたかった(大事なので)。

 足掻いた結果『倫敦編』と呼べるものになったかはご笑覧頂いた方のご判断を仰ぐところですが、及第点を頂ければ光栄至極です。


 サーヴァントの「受肉」「電脳生命として再誕」はともかく、「マスターとの関係を保った場合」の死者の現界にはどういう名目が成り立つか。と、いうわけで、タイトルは、ラスト近傍のアーチャーの台詞から。
 言い訳させて頂ければ、まさかあんな結論になるとは書き手も最後まで思っておらず、唖然として自分の打った文字を三度見しました。す、末永くお幸せに…………?
2016/05/04

作品情報

【倫敦弓士 その1】

奥付のQRコード以外からいらっしゃった方で、後書きの続きにご興味おありの場合はこちらからどうぞ。
倫敦弓士 その2はこちら

コメントお返事
http://realta-nua.org/index.php/view/6
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作品について

作品名 ずっと十年先をゆく
作家名 年齢区分
発行日 2016/05/04 発行イベント SCC25(衛宮士郎受プチオンリーしうけぷち!) ノ01b
作品タグ Fate/staynight, 弓士, 衛宮士郎, アーチャー,
紹介URL http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6713580
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